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読書警部のブログ

読書の記録、日々の生活のこと書いてます

【書評】『逆説の日本史18 幕末年代史編 黒船来航と開国交渉の謎』井沢元彦

井沢元彦 歴史 書評

『太平の眠りを醒ます上喜撰(じょうきせん)、たった四杯で夜も眠れず』という当時の幕府を皮肉った狂歌は歴史教科書に必ず登場します。「上喜撰」とは緑茶の銘柄で四杯飲んだだけで眠れない→「蒸気船」が「四隻」アメリカから来ただけで夜も眠れなくなるほど慌てる幕府の様子を狂歌にしたものです。
本書は詳細な史料をもとに、日本を開国させたいアメリカと幕府の役人の駆け引きが詳細に記されています。

 

 

 

井沢元彦 - Wikipedia

 

私が 『逆説の日本史』シリーズの特に好きなところは、以下の点です。

1.歴史を分かりやすく学べる。
2.歴史上の出来事と現代が、どの様に繋がっているかが関係性が良く分かる。
3.従来の定説では無い説があるという事実を知る事ができる。


『まえがきにかえて』で井沢氏は、歴史を知ることの意義について述べています。


日本人は、少なくとも文字による記録がなされるようになってからおよそ二千年の歴史を有しています。その二千年分の知恵を活用しない手はないと思うのです。家と同じで、政治制度も時が経てば古くなります。最初は雨漏りを防ぐ程度の補修で済むが、根本的に土台から建て直さなければならない時が必ずやってきます。明治維新がまさにその時だったし、今また、その時期を迎えている気がしてなりません。歴史を読むことは、知識を得ることよりも知恵を生むことだと思っています。

 歴史を読むことで知識を得て新しい知恵が生まれる。読書することでストレス解消にもなる。なんかお得ですね。

dokusyokeibudono.hatenablog.com

 

 アメリカが日本に開国を求めた最大の理由は日本の植民地支配が目的ではなくアジア進出、中国との貿易をする為の補給基地の確保でした。当時のはアメリカから日本へ来る場合は大西洋からシンガポール、香港、マカオ、上海をぐるりと遠回りしていたので、日本に補給基地を開港してもらうことは大変メリットがあったのです。

その為、アメリカは最初(ペリー来航から9年前)は友好親善を求め、その要望に応じることは日本の国益にもかないました。

しかし当時の幕府はペリー来航まで何も対策をせず、のらりくらりと不誠実な対応でごまかそうとしたことで最終的にアメリカを怒らせてしまい、武力により威嚇され開国をせまられることになってしまうのです。

たとえば、ペリーの黒船が来航することを、幕府の首脳は一年も前から知っていた。『オランダ風説書』によってである。しかし、それが日本の将来にとって、どんな大きな意味を持つかはまるでわかっていなかった。だから、何の準備もせず、来航が予想された浦賀奉行所の現場担当者にすらその情報を伝えなかった。だから実際に黒船が来た時、あわてにあわて対応が後手後手にまわった。

 

江戸幕府徳川家康の思想を儒教で捻じ曲げ、鎖国を「祖法」 と思い込んで頑なに守ろうとしました。しかしそれらは全て幕府の怠慢によるものと筆者は切り捨てています。

 

アメリカからはモリソン号以外にも民間商船あるいは捕鯨船がやってきて「開港要望」を出していたし、公式使節としてもジェームズ・ビッドルがペリー来航の七年前にやってきて、日本側に「開港要望書」を出している。 既に述べたように、この時日本側の代表としてビッドルに応対したのは、老中阿部伊勢守正弘であった。そして、この時からずっと阿部は老中の座にいた。しかも、ペリーが来航するという情報は日本に既にもたらされていた。にもかかわらず、アメリカが不退転の決意で来ていることを情報把握していたのに、幕府はこの時筆頭老中となっていた阿部を含め、何もしなかった。 本当に「何もしなかった」のである。 それどころか、この時、ペリーと最初に応接した浦賀奉行所の与力中島三郎助にさえ、ペリー来航の情報は伝えられていなかったという。現場の担当者にすら、である。徹底した情報管理と、その上に胡座をかいた「何もしない」政権、これが幕府である。

 そして明治時代に向けて日本に大きなハンデを背負わせてしまうことになります。

 

 さて、そこで開国に至る幕末外交のことだ。「録画」を見るように「歴史」を見れば、確実に言えることは、幕府は不平等条約という重荷を後の日本に負わせた、ということだろう。開国への混乱で多くの人々が犠牲になったことも無論ある。不平等条約というと、われわれは現代の沖縄問題、つまり米兵の犯罪がきちんと裁かれないことの連想から、ついつい治外法権(外交官だけでなく一般の外国人にも認められていた)の方を想起するのだが、もう一つの関税自主権が無い」ことの方が経済的にははるかに重要である。関税自主権を持たないということは、ゴルフにたとえればプロとハンデ無しで戦えということだ。将棋にたとえれば平手で有段者と指せということである。こんなとてつもないハンデを、われわれの先祖は明治の末年近くの条約改正まで、欧米に対して背負わされていたのだ。 それでも、近代化を為しとげ、世界の強国にのし上がったのだから、明治人は大したものだと言えるが、この間の日本の経済的損失は計算すれば天文学的なものになるだろう。逆に言えば、不平等条約さえ結ばされなければそんな事態は避けられたのだ。

本書は 幕末史の中でも、明治維新に関係した有名な人物が登場するというよりも、地方の役人や幕府の官僚が主役です。アメリカの開国要求に対して幕府が何もしないので、なんとかその場を乗り切ろうと現場の担当者が嘘をついたりごまかしたりする様がリアルに描写されています。

中にはやることが多過ぎて過労死をする役人(江川英龍)も出てきます。筆者は「日本初の労災死」ではないか、と言っています。本文の中でも紹介されていますが、江川英龍はかなり優秀な人物であり、異常なスピードでアメリカの脅威への対応を行なっています。その為負担が集中し、過労死…現代でもありそうな話ですね

江川英龍 - Wikipedia

 

現代の組織でもトップが何もせずに現場が困る、というのはよくある話で、どの時代も同じなのだなぁと感じました。